SEASON 2 / CASE 029 / 賞金 回収 290,000 cr

彗星の尾はなぜ太陽と反対を向くのか|二本の尾を追う夜

CASE 029「二本の尾を追う夜」の事件サムネイル
この記事のもくじ(22項目)

まずは、かんたんな答えから

彗星の尾はなぜ太陽と反対を向くのか、かんたんに言うと

彗星の尾はなぜ太陽と反対を向くのか。ふしぎに思ったことはありませんか。

走ると、髪は後ろへなびきます。彗星の尾も進む向きの後ろへなびいている、と思うかもしれません。でも、ちがいます。

尾の向きを決めているのは、進む速さではなく太陽です。太陽からは、風のようなものと強い光がふきつけています。それにおされて、ちりやガスは太陽と反対がわへ流されます。

だから彗星が太陽から遠ざかるときは、尾のほうが前を向きます。

なお、尾は一本ではありません。ガスの尾はまっすぐ、ちりの尾は曲がって広がります。

つまり彗星の尾は、走った跡ではありません。太陽にふきつけられた向きを、そのまま見せているのです。

この記事に出てくるナイトジャー号、CLOCK 14、賞金令状は、STAR WARRANT の物語です。星や宇宙のしくみについての説明は、実際の観測と研究にもとづいています。

小惑星帯の外縁、ナイトジャー号の観測区画。ミラ・ヴォスが追っている彗星は、同じ核から向きの違う尾を二本伸ばしている。片方はまっすぐ、もう片方はゆるく曲がり、どちらも彗星の進行方向を指していない。

同じ天体から出た物質が、別の方向へ分かれていきます。イオンテールは太陽風と惑星間磁場の作用でほぼ反太陽方向へ伸び、ダストテールは太陽光の放射圧と重力を受けた塵の軌道が曲線を作ります。この記事では二本を一枚の写真に固定せず、太陽風と放射圧が別々に効くという観測、尾の向きを決めるモデル、核内部の構造と噴出量という未確定部分を順に確かめます。

観測ドームの画面に、淡い彗星が現れました。核の周囲にはぼんやりしたコマが広がり、そこから二種類の尾が伸びています。一本は青みを帯びて細く、もう一本は白っぽく幅広いです。しかし、軌道計算班が示した彗星の進行方向と尾の向きは一致しません。地球の飛行機雲や煙を思い浮かべると、彗星は後ろへ尾を引くように見えます。しかし宇宙では、尾の方向を決める主役は進行方向ではなく太陽です。

彗星は「燃える星」ではありません。多くは水氷、二酸化炭素、一酸化炭素などの揮発性物質と、岩石質・有機物を含む塵が混ざった小天体です。太陽から遠い間は暗い核に近いが、近づくと表面や浅い内部の氷が昇華し、ガスと塵を放出します。核を包むガスと塵の雲がコマで、その一部が太陽光と太陽風によって選別され、異なる尾を作ります。

暗い核から大きなコマへ

彗星核は数百メートルから数十キロメートル規模のものが多く、地球から見ると直接分解できないことが多いです。ところが活動が始まると、コマは核より何桁も大きく広がり、明るさの大部分を担います。私たちが「彗星の頭」として見る明るい球は、固体の本体そのものではありません。

太陽光が表面を温めると、固体の氷が液体を経ずに気体になる昇華が進みます。ガスは表面の塵を引きずり出し、ジェット状の噴出を作ります。ESAの探査機ロゼッタが彗星67P/チュリュモフ・ゲラシメンコを長期間追跡したことで、崖、穴、割れ目、昼夜や季節による活動変化が詳細に観測されました。

「汚れた雪玉」という古い比喩は、氷と塵を含む点では役立つが、核が柔らかな雪の塊という意味ではありません。67Pでは多孔質で非常に暗い表面、複雑な地形、崩落、塵の移動が見つかりました。彗星ごとに組成と活動様式は異なり、一つの核を全彗星の標準模型として扱えません。

青い直線――イオンテール

コマのガス分子は太陽の紫外線や太陽風との相互作用で電離し、正または負の電荷を持つ粒子になります。これらは太陽風に運ばれ、惑星間磁場の影響を受けて、ほぼ太陽と反対方向へ細長いイオンテールを作ります。青く写ることが多いのは、一酸化炭素イオンなどが特定波長で発光するためです。

イオンテールは太陽風の変動へ素早く反応します。向きが曲がったり、筋が生じたり、尾の一部が切り離されたように見えることがあります。これは彗星が急に進路を変えたからではなく、太陽風の速度・方向や惑星間磁場の構造が変化した結果です。磁場の向きが切り替わる境界を通過した際、尾が再接続して分離する「ディスコネクション・イベント」も観測されます。

彗星核そのものが強い永久磁石として尾を固定しているわけではありません。ロゼッタと着陸機フィラエの磁場測定では、67Pの核や、少なくとも測定できる1メートル以上の構成単位が強く磁化している証拠は得られませんでした。一方、彗星周辺では太陽風と放出ガスの相互作用により外部由来の磁場やプラズマ構造が形成されます。核が磁石ではなくても、イオンテールは磁場の影響を強く受けます。

白い曲線――ダストテール

塵粒子は電離ガスより重く、太陽風に同じようには流されません。主に太陽光の放射圧と太陽重力を受けながら、それぞれが太陽周回軌道を進みます。核から放出された時刻と粒子サイズが違うため、地球から見ると幅広く曲がったダストテールになります。

小さな粒子ほど質量に対する断面積が大きく、放射圧の影響を強く受けます。大きな粒子は彗星の軌道近くに残りやすく、長い時間をかけてダストトレイルを形成します。流星群の原因となる塵の帯も、彗星が過去の接近で残した粒子が軌道に分布したものです。

ダストテールは太陽光を散乱して白色から黄白色に見えやすいです。尾が曲がるのは、風で布がなびいているからではなく、異なる放出時刻・粒径の粒子が別々の軌道を取るからです。観測画像から尾の筋を分析すると、いつ放出された粒子か、放射圧に対する応答がどの程度かを推定できます。

尾は本当に二本だけか

一般向けには「彗星にはイオンテールとダストテールの二本がある」と説明されます。これは基本構造を理解するには有効ですが、画像に見える筋の数と常に一致するわけではありません。ダストテール内部には粒径や放出時刻の違いによる複数の細い筋が現れ、イオンテールも何本もの筋に分かれて見えることがあります。

さらに、ナトリウム原子の発光で見えるナトリウムテールや、中性水素が広がる非常に大きな水素コロナなど、観測波長によって別の構造が現れます。肉眼写真で二本に見えなくても、尾が一種類しか存在しないとは限りません。逆に「三本の尾」と報道された画像が、三つの独立した物質放出機構を意味するとも限りません。

ロゼッタは核の近くで塵粒子を直接測り、地上望遠鏡は大規模な尾を撮影し、太陽探査機ソーラー・オービターなどは彗星の尾を横切ってプラズマを測りました。近接測定と遠隔画像を組み合わせることで、画面上の一本の筋がどの粒子集団に対応するかを検査できます。

太陽側へ伸びる「逆向きの尾」

ときどき彗星に、太陽の方へ伸びているように見える細い尾が現れます。これをアンチテイルと呼びます。名前だけを見ると、太陽風に逆らって物質が太陽へ吹き出しているようですが、多くの場合は視線方向による見かけの構造です。

大きめの塵粒子は彗星の軌道面近くに薄い帯として分布します。地球がその軌道面をほぼ真横から見る位置へ来ると、塵の帯が遠近方向に重なり、一部が核から太陽側へ突き出したように見えます。紙の薄い円盤を横から見ると線になるのと似ています。

アンチテイルは、尾の向きを理解する良い検査問題になります。実際の粒子運動、太陽から見た方向、地球からの投影を分けなければ説明できません。「すべての尾は常に画像上で太陽と正反対へ伸びる」という言い方も正確ではありません。三次元の構造を二次元画像に投影するため、見かけの角度は変わります。

彗星の尾はどれほど長いのか

イオンテールやダストテールは数百万キロメートルから、条件によってはさらに長く伸びます。しかし「長さ」は、どの明るさまでを尾として検出するか、観測波長、露出時間、地球との位置関係で変わります。淡い部分まで写る装置では、肉眼で見える長さよりはるかに大きくなります。

長い尾を持つからといって、彗星核が巨大というわけではありません。数キロメートルの核から放出された非常に薄い物質が、宇宙空間に広く分布しています。尾の密度は極めて低く、探査機が通過しても、地球の雲や煙の中へ入るような抵抗を受けるわけではありません。

地球が彗星の尾を通過する可能性が話題になることがありますが、それだけで有毒ガスが地表へ降り注ぐとは限りません。地球大気の質量に比べて尾の物質は非常に希薄です。1910年のハレー彗星接近時には尾に含まれるシアン化物への恐怖が広がりましたが、地上への有害な濃度上昇は起きませんでした。

核はなぜ崩れ、尾は急に変わるのか

彗星は太陽へ近づくたびに表面物質を失います。内部の氷が昇華して空洞を作り、崖が崩れ、塵の覆いが移動し、回転状態が変わります。噴出による反作用は軌道や自転へ小さな非重力加速度を与えます。長期の軌道予測では、この効果も考慮する必要があります。

太陽へ非常に接近するサングレーザー彗星では、強い加熱、潮汐力、急速なガス放出によって崩壊するものがあります。分裂すると複数の核片がそれぞれコマと尾を作り、画像は急速に変化します。尾が途切れたように見えても、核が消滅したとは限らず、プラズマ尾だけの切断の場合もあります。

彗星の明るさ予測が難しいのは、距離だけでなく核の活動性に左右されるからです。表面の新しい氷が露出して急増光することも、塵の殻で活動が抑えられることもあります。「次の大彗星」と予告された天体が期待より暗くなる一方、予想外のアウトバーストを起こす天体もあります。

ロゼッタが近くで見た活動

ロゼッタは2014年に67Pへ到着し、太陽へ近づき、再び遠ざかるまでを伴走しました。核は二つの大きな塊が首のような部分でつながった形を持ち、表面には崖、平原、割れ目、穴がありました。活動ジェットは一様に出るのではなく、日照と季節、地形、表面の崩壊に応じて変化しました。

探査機の塵分析装置は、非常に壊れやすい集合体から比較的緻密な粒子まで、多様な塵を測定しました。ガス分析では水、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素、複雑な有機分子などが検出されました。ただし、ある彗星で検出された成分比を、全彗星の平均と考えることはできません。

フィラエは予定地点に固定できず、複数回跳ねた後に別地点へ停止しました。着陸の難航は工学的には問題でしたが、異なる地点の磁場情報を得るという科学的効果も生みました。彗星研究では、成功・失敗の単純な二分ではなく、得られたデータがどの仮説を検査できるかが重要になります。

彗星は地球の水を運んだのか

彗星には水氷があるため、初期地球へ水を供給した候補として研究されてきました。水素の同位体比、特に重水素と水素の比は、地球海水との関係を調べる指紋になります。ところが彗星ごとに比率は異なり、67Pの水は地球海水より高い比率を示しました。

この結果から「彗星は地球の水と無関係」と一括して結論することもできません。木星族彗星とオールト雲彗星の中でも多様性があり、初期太陽系での形成場所と移動、後の化学変化を考える必要があります。炭素質小惑星が主要供給源だった可能性は強く検討されるが、彗星の寄与が完全にゼロと確定したわけではありません。

CASE029の主題は尾ですが、尾へ放出されたガスの同位体測定は、太陽系形成史にもつながります。美しい尾は単なる外観ではなく、普段は核内部にあった物質を宇宙へ運び、遠隔分光や探査機で分析可能にする試料放出口なのです。

観測の夜に何を見るか

明るい彗星が現れた場合、双眼鏡はコマとダストテールの広がりを見るのに向きます。倍率が高すぎる望遠鏡では、長い尾が視野からはみ出すことがあります。彗星の位置と明るさは日ごとに変わるため、最新の公式軌道情報と星図を確認し、薄明、月明かり、地平線の高さを考慮します。

尾を見るために彗星へ正確に視線を固定し続ける必要はありません。暗い場所へ目を慣らすと、淡い広がりが分かりやすくなります。写真では長時間露光や画像処理により、肉眼より長く鮮明な尾が写ります。SNS画像と現地の肉眼像が違っても、観測失敗とは限りません。

太陽へ近い彗星を探す際は、安全上の注意が必要です。双眼鏡や望遠鏡を太陽へ絶対に向けないでください。短時間でも失明につながる危険があります。公開天文台や経験者の案内を利用し、太陽が十分沈んだ後、または太陽から安全な角距離がある条件で観察します。

尾の向きから確定できること

観測事実は、核の画像、コマと尾の明るさ、スペクトル、塵粒子の直接測定、ガス組成、太陽風と磁場、尾の時間変化です。イオンが太陽風・惑星間磁場と相互作用し、塵が放射圧と重力のもとで軌道運動するという枠組みは、多数の観測と物理計算で支持されます。

モデルが必要なのは、画像上の筋から粒径と放出時刻を逆算し、核内部の空隙や熱伝導を推定し、ジェットの発生地点と自転変化を再現する部分です。同じ尾の形を、異なる粒径分布や放出履歴が似たように作る場合もあるため、一枚の写真だけで組成を断定できません。

不確実性は、核内部の層構造、活動を始める深さ、長期的な崩壊過程、彗星ごとの形成場所、地球への水・有機物供給量などに残ります。尾が太陽と反対を向く基本原理は確立していても、個々の彗星がいつどれだけ物質を放出するかは予測が難しいです。

STORY — ミラが「本物の尾」を選ばない

賞金令状は、二本のうちどちらが本物の尾かを判定し、偽物を観測記録から削除するよう求めていた。ミラ・ヴォスは削除欄に何も書かなかった。

「青い方が本物だと書けば、塵の軌道を捨てることになる。白い方だと書けば、太陽風の記録を捨てる。どちらも同じ核から出た物質だ」

MICA-13は判定欄をIONとDUSTの二行に分け、さらに見かけの三本目にPROJECTIONという注記を付けた。判定を一つに絞れなかったため、この夜の報酬は満額に届かなかった。

二本の尾が示した中間判定

観測ドームの夜明け前、イオンテールは太陽風の変化に合わせてわずかに折れ、ダストテールは軌道面に沿う緩い曲線を保ちました。二本が別方向へ伸びたことで、尾が単なる「進行方向の後ろの煙」ではないことが目で確認できました。

イオンテールは電離したガスが太陽風と磁場に運ばれる記録であり、ダストテールは塵が太陽重力と放射圧のもとで別々の軌道を進む記録です。アンチテイルは、その三次元分布を地球から見る角度が作る投影です。同じ核から出た物質でも、電荷、質量、粒径によって宇宙での運命が分かれます。

彗星の尾は、彗星が後ろへ置いていく飾りではありません。太陽光と太陽風が、核から解放された物質を巨大な分析図へ広げたものです。ここからは、太陽までの距離だけでは決まらない活動量、塵の筋から放出時刻を戻す方法、写真の色と投影の限界を照合します。

太陽へ近づけば必ず同じように明るくなるか

彗星活動は太陽からの距離が小さくなるほど一般に強まるが、単純な逆二乗則だけでは明るさを予測できません。水氷が活発に昇華する距離より外側でも、二酸化炭素や一酸化炭素など、より低温で気体になりやすい成分が活動を駆動することがあります。表面に断熱性の高い塵の層があれば、太陽へ近づいても氷へ熱が届きにくいです。

核の回転軸と軌道の関係も重要です。北半球と南半球で季節が生じ、近日点前と近日点後で同じ距離にいても活動量が違う場合があります。67Pでは短く強い南半球の夏と、長く穏やかな北半球の季節があり、表面変化や塵放出へ非対称性をもたらしました。

明るさには、ガス量だけでなく塵の量、粒径、反射性、地球との距離、太陽―彗星―地球の角度が影響します。塵が前方散乱しやすい配置では急に明るく見えることもあります。近日点距離が同じ二つの彗星でも、核の大きさと活動履歴が違えば、肉眼等級は大きく異なります。

尾の筋から時間を逆算する

ダストテールを解析する古典的な方法では、同じ時刻に放出された粒子が並ぶ線と、同じ放射圧応答を持つ粒子が並ぶ線を計算し、観測画像に重ねます。前者はシンクロン、後者はシンダインと呼ばれます。尾の扇形や細い筋がどの組み合わせに近いかを見ることで、突発的な噴出の時期や粒径範囲を推定できます。

ただし、粒子が球形で同じ密度を持つという単純化、初速度、核の自転、ジェット方向などが結果に影響します。実際の彗星塵は多孔質の集合体や不規則形状を含み、太陽光を受けた際の応答も一様ではありません。画像に線がきれいに重なっても、ただ一つの解が得られたとは限りません。

イオンテールでは、太陽風の構造が時間差を伴って彗星位置へ届きます。尾に生じる波や折れを、太陽風観測や太陽活動と照合すれば、彗星を自然の太陽風検出器として利用できます。探査機が彗星尾を横切る観測は、遠隔画像の明暗が実際のプラズマ密度・組成とどう対応するかを確かめる機会になります。

写真の色はそのまま肉眼の色ではない

彗星写真では、コマが緑、イオンテールが青、ダストテールが白や黄に表現されることが多いです。緑色のコマには二原子炭素などの発光が寄与し、青いイオンテールには一酸化炭素イオンなどの発光が関係します。しかし、淡い彗星を人間の暗所視で見ると、色を識別する錐体細胞が十分に働かず、灰白色に感じることが多いです。

カメラは長時間にわたり光を蓄積し、特定のフィルターや画像処理で弱い色差を強調できます。公開画像が偽物という意味ではないが、「目でこの鮮やかな青と緑が見える」と期待すると差が生じます。科学画像では、肉眼色、波長別合成、狭帯域フィルター、擬似カラーのどれかを説明する必要があります。

コマが緑なのに尾が同じ緑で長く伸びない理由には、発光分子の寿命や太陽光による分解が関係します。分子が尾へ運ばれる前に別の種に変化すれば、核近くで強い発光が終わります。色の分布は、単なる見た目ではなく化学反応の時間尺度を示します。

彗星、小惑星、流星を混同しない

彗星と小惑星の境界は、氷を持つか岩石だけかという単純な二分ではありません。小惑星のような軌道と外見を持ちながら塵を放出する活動的小惑星や、過去の揮発性成分をほぼ失った休眠彗星候補があります。分類には軌道、活動、スペクトル、熱特性などを組み合わせます。

流星は、宇宙空間の小さな粒子が地球大気へ高速で入り、発光する現象です。空に一瞬伸びる流星の光跡は、彗星の尾が地球大気へ見えているものではありません。流星群では、地球が彗星などの残した塵の軌道を横切り、似た方向から多数の流星が現れます。

隕石は大気中で消滅せず地上へ到達した固体です。彗星核の破片が隕石として保存される可能性は議論されるが、壊れやすい彗星性物質は大気突入で失われやすいです。彗星、流星、隕石を同じ「空から落ちる星」とまとめると、尾の形成と地球大気での発光を混同してしまいます。

次に確かめるべき未解決点

彗星核の内部がどの大きさの構成単位からでき、空隙や氷がどの深さに分布するかは、活動を予測する上で重要です。表面画像と重力測定から平均密度は分かっても、内部の層、割れ目、氷の集中を一意に決められません。レーダー探査、複数地点での地震的測定、試料回収が将来の検査方法になります。

尾についても、粒子の電荷、形状、破砕、昇華が大規模構造へどう反映されるかに不確実性があります。塵集合体は太陽光で分解し、さらに小さな粒子に変わる可能性があります。イオンテールでは、太陽風の乱流と磁気リコネクションをどのスケールで扱うかが課題になります。

観測者ができることもあります。世界各地から時刻と装置条件をそろえた連続画像が集まれば、急な尾の変化やアウトバーストを追跡できます。彗星は一晩で形が変わるため、大型望遠鏡の高精度観測と、多数の小型機材による時間の隙間を埋める観測が補完し合います。

尾の向きを自分で確かめる手順

観察記録には、彗星の位置だけでなく太陽の方向も残します。夜空では太陽が地平線下にあるため、星図アプリや天球図で彗星から見た太陽方向を確認します。写真に天の北と東、撮影時刻、焦点距離、露出時間を記録すると、翌日の画像と比較しやすいです。

イオンテールは淡く、光害や月明かりの影響を受けやすいです。ダストテールの方が肉眼や双眼鏡で分かりやすい彗星も多いです。青い細線が写らなかったからといって、イオン放出が存在しないとは限りません。カメラの感度、フィルター、空の透明度によって検出限界が変わります。

複数夜の画像を彗星核の位置でそろえると、背景星が移動し、尾の形の変化が見えます。逆に星を基準に追尾すると彗星が流れます。美しい一枚を撮る目的と、尾の時間変化を測る目的では、追尾と処理の方法が異なります。科学観察では、失敗画像に見えるものも、露出条件と時刻が明確なら比較資料になります。

誤解を封じる最終照合

尾は、彗星が高速で進むため後方に残る煙ではありません。イオンテールの主方向は太陽風と惑星間磁場で決まり、ダストテールは放射圧と重力の下で粒子が取る軌道の集合です。そのため彗星が近日点を回って進行方向を大きく変えても、尾はおおむね太陽と反対側へ向きを変えます。

尾の中に有機分子や反応性の高い成分が見つかることは、生命が発見されたことを意味しません。有機物は炭素を含む化合物の広い分類で、非生物的な化学反応でも作られます。地球へ有機物を供給した可能性と、彗星に生物が存在するという主張も別です。

彗星の尾を正しく読むには、核、コマ、ガス、イオン、塵、観測者の視線を分ける必要があります。二本の尾は、同じ出発点から放たれた物質が、性質の違いによって別々の物理法則を強く受けることを、太陽系規模で見せる実験なのです。

観測の夜に尾の角度が変わったなら、彗星が気まぐれなのではありません。太陽から届く光と風、粒子の性質、地球からの見方が変わった証拠です。

彗星の軌道から小天体事件へ

地球接近天体の危険評価はCASE030「小惑星衝突と惑星防衛」、外太陽系小天体の集団はCASE038「冥王星とカイパーベルト」で扱います。本件は探査機の長い航海そのものには踏み込みません。

STORY — 二本の尾を一つにしないまま観測ドームを閉じる

夜明けが近づき、ミラ・ヴォスは彗星が視野から外れる前に最後の一枚を撮った。尾の方位だけでは何も決まらない。粒子の大きさ、太陽風の向き、そして自分がどこから見ているかを、同じ軌道図の上に並べて初めて二本の線は意味を持つ。

MICA-13は記録を閉じ、方位から尾の正体を推定する旧処理を停止した。次にこの彗星が太陽へ近づくとき、ナイトジャー号は「どちらが本物か」ではなく、「どの粒子がどの力を受けたか」から観測を始めることになる。


区分表示:ナイトジャー号の観測区画、賞金令状、CLOCK 14の判定はSTAR WARRANTの物語です。イオンテールとダストテールの生成、放射圧と太陽風、ロゼッタによる67P観測、アンチテイルの見え方は現実の観測と研究であり、作中の捜査とは分けて読みます。

REAL SCIENCE 現実の科学

  • イオンテールは太陽風と磁場の影響を強く受ける
  • ダストテールは放射圧と粒子の軌道差で曲がる

STORY 作中だけの設定

  • ナイトジャー号、賞金令状、CLOCK 14と今回の捜査は『STAR WARRANT』の創作です
  • 現実の天体・観測値・科学モデルは、記事末の出典と確認日に基づいて区別します

HYPOTHESIS 未確定の仮説

  • 核内部の構造と活動地点ごとの噴出量
  • 個々の彗星が地球の水に寄与した割合

SEASON 2 MEMORY

この捜査で確定したこと

  • イオンテールとダストテールは成分も受ける力も異なる
  • 見かけの逆向きの尾は投影効果で説明でき、物質が太陽へ吹かれている証拠ではない

読了記録は、この端末のブラウザーにだけ保存されます。

参考資料

  1. ESA「Structure of a comet」 核、コマ、イオンテール、ダストテール(確認日: 2026年8月11日)
  2. NASA Science「Comet Facts」 彗星核、氷、塵、活動(確認日: 2026年8月11日)
  3. ESA「Frequently asked questions: Rosetta」 67P探査、ロゼッタ観測(確認日: 2026年8月11日)
  4. ESA「Rosetta and Philae find comet not magnetised」 67P表面の複数地点で核由来の磁場を検出しなかった測定(確認日: 2026年8月11日)
  5. ESA「First measurements of comet's water ratio」 67Pの重水素・水素比と地球海水との差(確認日: 2026年8月11日)
  6. ESA「Solar Orbiter catches a second comet by the tail」 ソーラー・オービターによる彗星イオンテール内の粒子・磁場測定(確認日: 2026年8月11日)

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