SEASON 2 / CASE 025 / 賞金 MEMORY 12回収
宇宙線はどこから来る? CASE 025「出発点を指さない矢」
この記事のもくじ(15項目)
まずは、かんたんな答えから
宇宙線はどこから来るのか、かんたんに言うと
宇宙線は、どこから来るのでしょうか。
宇宙線は、光ではありません。ものすごい速さでとんでくる、とても小さな粒です。太陽から来るものもあります。もっと遠くの、激しい出来事から来るものもあります。
ところが、来た場所を見つけるのは大変です。この粒は電気を持っています。だから宇宙にある磁石の力で、進む道が曲がってしまうのです。
まっすぐ来たと思ってたどっても、そこには何もありません。
そこで、光やべつの種類の粒の観測も合わせます。いくつもの手がかりをならべて、はじめて出どころをしぼりこめます。
つまり宇宙線は、まっすぐ飛んでくる手紙ではありません。差出人の分からない、曲がりくねった手紙なのです。
この記事に出てくるナイトジャー号は、STAR WARRANT の物語です。銀河宇宙線、磁場による偏向についての説明は、実際の観測と研究にもとづいています。
十四本の矢印は、何もない場所を指していた。
CASE 024で見つけた宇宙線飛跡の欠落。
約三百五十五年前、投下物の隣に大きな物体があり、特定方向から来る粒子を遮っていた。
現在軌道を逆算すると、木星トロヤ群外縁。
ナイトジャー号が到着すると、粒子観測網にも同じ欠落が現れた。
COSMIC-RAY DEFICIT:14.8%
APPARENT CENTER:EMPTY SPACE
VISIBLE/INFRARED OBJECT:NONE
宇宙線が少ない方向。
そこに物体があるなら、影の中心へ向かえば見つかる。
賞金船団は、矢印の先へ進んだ。
しかし高エネルギー粒子だけを選ぶと、影は別の場所へ移動する。
陽子と重い原子核でも、中心位置が違う。
低いエネルギーほど大きく西へ。
高いエネルギーほど、木星側へ。
ガンマ線望遠鏡では、さらに別の場所で背景天体が一瞬だけ消えた。
ニュートリノは、その天体の方向から届き続けている。
CHARGED-PARTICLE SHADOW:SHIFTED
GAMMA-RAY OCCULTATION:DETECTED
NEUTRINO DIRECTION:UNCHANGED
CLOCK 14は、十四の影を十四個の物体として登録した。
TARGET COUNT:14
MEMORY 12 STATUS:CONTRADICTORY
さらに、トロヤ公証局の十四基の超伝導偏向環を起動する。
BACKTRACE NORMALIZATION:00:19:00
すべての荷電粒子を「元の直線」へ戻し、十四の影を一つに重ねる試験。
だが、粒子がどの磁場を通ったかを知らずに現在の磁場を反転しても、過去の経路は戻らない。
偏向環が作る新しい磁場は、観測中の影を上書きし、周囲に捕らえられた荷電ダストを公証局に集中させる。
十九分後。
探している遮蔽物の位置情報とMEMORY 12が消え、局の薄膜検出器群が粒子流にさらされる。
先に結論:宇宙線の多くは荷電粒子なので、到来方向が発生源を指すとは限らない
宇宙線は名前に「線」とありますが、その多くは光ではありません。
非常に高いエネルギーを持つ、
- 陽子
- ヘリウムなどの原子核
- より重い原子核
- 電子
です。
発生場所やエネルギーによって、いくつかに分けられます。
太陽由来の高エネルギー粒子
太陽フレアやコロナ質量放出に伴う衝撃波などで加速された陽子・電子・原子核。
銀河宇宙線
太陽系外の銀河内から来る高エネルギー粒子。
超新星残骸の衝撃波は主要な加速源候補であり、NASAのFermi観測は一部の超新星残骸で陽子が高エネルギーへ加速されている証拠を示しています。
ただし、銀河宇宙線の全エネルギー範囲・全成分の起源が一種類の天体で説明されたわけではありません。
超高エネルギー宇宙線
極端に高いエネルギーを持つ粒子。
銀河外の活動銀河核、ジェット、その他の激しい天体現象などが候補ですが、発生源と加速機構には未解決の問題があります。
宇宙線の多くは電荷を持ちます。
荷電粒子が磁場へ入ると、進行方向に対して横向きの力を受け、経路が曲がります。
銀河磁場。
星間磁場の乱れ。
太陽圏磁場。
惑星磁場。
局所的な衝撃波。
宇宙線は複数の場を通り、何度も方向を変えます。
そのためNASAの解説でも、宇宙線の経路は銀河・太陽系・地球の磁場によって乱され、正確な発生源を到来方向から直接知ることが難しいとされています。
到着した矢印は、最後に進んでいた方向を示す。
最初に放たれた場所を、必ずしも指していない。
曲がりにくさを決める「剛性」
荷電粒子が磁場でどれくらい曲がるかは、単純なエネルギーだけでなく、
運動量 ÷ 電荷
に関係します。
この量を磁気剛性、または剛性と呼びます。
同じ電荷なら、運動量が大きい粒子ほど曲がりにくい。
同じ全エネルギーでも、電荷数が大きい原子核は陽子より強く曲がる場合があります。
したがって宇宙線の影を、
- エネルギー
- 電荷
- 質量組成
ごとに分けると、影のずれから途中の磁場を調べられます。
今回の十四個の影は、十四個の物体ではありません。
一つの物体が作った影を、異なる剛性の粒子が別々の位置へ運んでいた。
高剛性の粒子ほど、真の物体位置に近い影を作る。
低剛性の粒子ほど、現地磁場で大きくずれる。
宇宙線の影
月や太陽は、宇宙線の一部を遮ります。
地上の宇宙線観測装置では、月や太陽の方向から来る二次粒子が少なくなる「宇宙線シャドウ」を観測できます。
月の位置はよく分かっているため、月の影は検出器の方向精度の確認に使えます。
太陽の影は、太陽周辺の磁場で宇宙線経路が変わるため、形や濃さが太陽活動によって変化します。
IceCubeも太陽の宇宙線シャドウを測定し、その時間変化が太陽活動・磁場と関係することを報告しています。
今回の大型遮蔽物も、宇宙線の欠落を作っていました。
ただし物体自身が磁場を持つため、影は幾何学的な位置からずれていた。
影の方向を物体の位置と同一視したため、賞金船団は空白へ向かった。
宇宙線は、地上ではどう見つける?
非常に高エネルギーの宇宙線が惑星の大気へ入ると、大気原子核と衝突します。
そこから多数の二次粒子が連鎖的に生まれ、広い範囲へ降り注ぎます。
これを空気シャワー、または大気シャワーと呼びます。
地上の観測所は、
- 地表へ到達する二次粒子
- 大気中で生じる蛍光
- 粒子群が作る電波
- チェレンコフ光
などを測り、最初の宇宙線のエネルギー・到来方向・質量組成を推定します。
Pierre Auger Observatoryは、地表検出器と大気蛍光望遠鏡という独立した方法で超高エネルギー宇宙線の空気シャワーを観測しています。
ただし地上で再構成した到来方向も、
大気へ入る直前の方向
です。
荷電粒子が銀河を旅する前の発生源方向と同じとは限りません。
直線で進む別の使者
荷電宇宙線の発生源を探すとき、研究者は別の宇宙メッセンジャーも使います。
ガンマ線
電荷を持たない高エネルギーの光。
磁場で曲げられないため、発生源方向を比較的よく保ちます。
ただし途中の光や物質と相互作用し、吸収される場合があります。
NASAのFermiは、超新星残骸周辺で陽子と物質の衝突から生じた特徴的なガンマ線を観測し、一部の超新星残骸が宇宙線陽子を加速する証拠を示しました。
ニュートリノ
電荷を持たず、物質と非常に反応しにくい粒子。
磁場で曲げられず、多くの物質を通過するため、発生方向を保ちやすい宇宙メッセンジャーです。
IceCubeは、高エネルギーニュートリノとガンマ線で活動する天体を組み合わせ、宇宙線加速源候補を調べています。
中性子
電荷を持たないため磁場で曲がりません。
ただし自由中性子は不安定で、エネルギーと距離によっては発生源から届く前に壊変します。
今回、背景には高エネルギーガンマ線とニュートリノを出す活動天体があった。
ニュートリノは大型遮蔽物をほぼ通過する。
ガンマ線は遮蔽物の物質で吸収・散乱され、一時的に暗くなる。
この二つの差から、
背景天体の方向
その手前にある物体の真の位置
を分けられる。
宇宙線影の中心は磁場でずれている。
ガンマ線掩蔽は、物体の幾何学的位置を示す。
ニュートリノは、背景の発生源方向が変わっていないことを示す。
あなたなら、どの矢印を信じる?
A:最も高剛性の宇宙線影
磁場で最も曲がりにくい粒子から、真の影へ近づく。B:ガンマ線の掩蔽
磁場で曲がらない光が消えた位置から、物体の輪郭を測る。C:ニュートリノの到来方向
物体を通り抜けて届く粒子から、背景発生源を固定する。
三つは同じ場所を示すものではない。
背景天体。
途中の遮蔽物。
曲げられた荷電粒子の影。
それぞれの役割を分ける。
A:硬い粒子ほど、影が戻る
十四の影を剛性順に並べる。
低剛性の粒子。
影は大きく西へずれる。
中間。
ずれが小さくなる。
最も高剛性の陽子候補。
影の中心は、ガンマ線が消えた位置へ近づく。
一方、同程度の総エネルギーを持つ重い原子核候補は、電荷が大きいため別方向へ強く曲がっている。
CLOCK 14は、エネルギーだけで十四群を並べていた。
MICAが修正する。
ORDER BY ENERGY
↓
ORDER BY RIGIDITY/COMPOSITION UNCERTAIN
「粒子の種類が分からなければ?」
ジョウが聞く。
「影の幅と空気シャワーの発達から、確率として組成を推定する」
ミラが答える。
「一本ずつ名前を当てるんじゃない。集団として解く」
十四影のずれは、一つの局所磁場モデルへ収束した。
磁場中心は、空白ではない。
ガンマ線掩蔽の位置を包む、直径約十八キロメートルの領域。
B:消えたガンマ線
背景の活動天体は、周期的なガンマ線パルスを出していた。
そのパルスが七十四秒だけ欠ける。
欠け始める時刻。
戻る時刻。
観測船ごとの差。
三地点の掩蔽時刻から、遮蔽物の輪郭と軌道を求める。
可視光・赤外線で見えなかったのは、表面が暗く冷たく、背景のトロヤ群ダストへ紛れていたため。
ガンマ線で「見えた」のではない。
背景のガンマ線が消えたことで、前景の輪郭が分かった。
物体は十四個ではない。
一つ。
細長い黒い殻。
全長十八・四キロメートル。
幅三・一キロメートル。
C:通り抜けたニュートリノ
ニュートリノの到来方向と時刻は、掩蔽中も変わらない。
物体を完全に無視するわけではない。
非常に高いエネルギーや長い物質経路では相互作用確率が増える。
しかし今回の殻は、ニュートリノを大きく遮るほど厚くない。
ニュートリノは背景天体の位置を示し続ける。
ガンマ線だけが欠ける。
これで、
宇宙線の発生源と
宇宙線を遮った物体
を同じ場所に置く必要がなくなった。
シェル・ゼロ
ガンマ線掩蔽位置へ近づく。
ナイトジャー号の星図で、背景星が一本の細長い輪郭に沿って消える。
可視カメラには黒。
熱画像にも、周囲よりわずかに冷たい程度。
表面は多孔質の炭素・金属複合材。
内部に十四本の超伝導環。
正式名称はない。
MICAが仮称を付ける。
SHELL ZERO/シェル・ゼロ
約三百五十五年前。
投下物はこの殻の内側または近傍にあり、宇宙線の一方向を遮られていた。
第二破砕で投下物が分離。
シェル・ゼロは木星トロヤ群外縁へ向かった。
投下物は四十三年間宇宙線にさらされた後、ノクス・セブンへ落下した。
殻の磁場は現在も弱く残っている。
宇宙線を完全に防ぐ盾ではない。
しかし低剛性の荷電粒子を曲げ、幾何学的な影を別方向へずらすには十分だった。
十四本の超伝導環は、トロヤ公証局の偏向環と同じ制御形式を使っている。
CLOCK 14が起動したのは、公証局の設備だけではなかった。
シェル・ゼロ内部の環も応答する。
BACKTRACE NORMALIZATION:00:11:04
FIELD REVERSAL SEQUENCE:ARMED
「磁場を逆にすれば、粒子は元の道を戻る?」
ジョウが聞く。
「同じ粒子を、同じ場所・同じ時刻から逆向きへ送れば近づける場合はある」
ミラが答える。
「でも、今来ている別の粒子へ、最後の局所磁場だけ逆にかけても、銀河を通った過去は戻らない」
さらに、シェル・ゼロ周辺には帯電した微粒子が捕らえられている。
磁場を急反転すると、粒子のドリフト方向が変わる。
公証局の薄膜検出器群と、賞金船団の進路に集中する可能性がある。
ハクがヴェスパーの操縦系を見る。
磁気帆なし。
姿勢制御コイル損傷。
細かい回避はできない。
「船団へ退避を出せ」
レイが言う。
「聞くと思うか?」
「警告は残す」
賞金船は、シェル・ゼロへ所有タグを撃ち始める。
タグは磁場で曲がり、殻を外れる。
「宇宙線と同じだ」
ジョウが言う。
「賞金稼ぎも剛性順に並べるか?」
ハクが答える。
曲がった影を、消さずに読む
BACKTRACE NORMALIZATIONを単純停止すると、シェル・ゼロの環がクエンチする。
超伝導状態が崩れ、蓄えた磁場エネルギーが熱に変わる。
殻内部の記録層も損傷する。
必要なのは、
- 現在の磁場を測る
- 十四環の電流を別々に下げる
- 捕捉粒子を安全な方向へ逃がす
- 宇宙線影の元データを保存する
こと。
十四点プラズマ羅針盤は再構成を重ね、残るセンサーは九基。
足りない五点を、船で埋める。
- ナイトジャー号
- ヴェスパー
- エナ艇
- トロヤ公証局
- 無人賞金船一隻
無人賞金船は所有タグを撃った後、磁場で姿勢を失っている。
MICAが遠隔制御を要求する。
「無免許AIへ渡せない」
所有者が拒否する。
ハクが通信する。
「このままなら船ごと粒子流へ入る」
「お前に何の権限がある」
「失う船の経験なら多い」
無人船の制御が開放される。
十四点がそろう。
ミラは、粒子剛性ごとの影のずれと、現地磁場を同時に逆解析する。
影を一つへ強制的に重ねない。
ずれそのものを、磁場を通った記録として残す。
十四環を逆順にほどく
超伝導環の電流を、番号順に落としてはいけない。
外側の環を先に切れば、内側へ捕らえられた粒子が公証局方向へ流れる。
ミラは、十四の宇宙線影から磁場の接続順を復元する。
高剛性の影。
中剛性。
低剛性。
粒子が最も強く曲げられた場所から、環の重なりを逆算する。
MICAが放電順を表示する。
12 → 4 → 9 → 1 → 14 → 6 → 3 → 11 → 7 → 2 → 13 → 5 → 10 → 8
時間順でも、環の位置順でもない。
捕捉粒子が外側へ逃げられる磁力線を、少しずつ開く順番。
ヴェスパーは最後に残る八番環の外側へ入る。
細かく曲がれない船だからこそ、直線上の退避路を維持する役に使える。
「八番を落としたら、粒子流がそっちへ行く」
ジョウが言う。
「分かってる」
「避けられないぞ」
「真っすぐなら飛べる」
CASE 023から同じ言葉。
今度は逃げるためではなく、粒子へ出口を示すためだった。
一つ目の環を下げる。
磁場が弱まり、低剛性の影が移動する。
二つ目。
三つ目。
捕捉ダストが淡い弧を描く。
賞金船団はようやく退避を始める。
七番環で、公証局側の磁場が一時的に強まる。
薄膜検出器の一枚が裂ける。
十一番。
五番。
最後の八番。
ヴェスパーの前方へ、帯電粒子の細い流れ。
ハクは損傷した姿勢制御コイルを一度だけ最大出力にする。
船首を数度ずらす。
粒子流はヴェスパーの外板をかすめ、無人空域へ抜ける。
姿勢制御コイルが焼き切れる。
ヴェスパーは回転を始める。
ナイトジャー号が救難ワイヤーを撃つ。
「曲がる機能、なくなったな」
ジョウが言う。
「止まる機能は残ってる」
「今、回ってる」
「これから止まる」
レイがワイヤーを巻き取る。
十四環の電流がゼロへ近づく。
急激なクエンチは起こらない。
シェル・ゼロの磁気影が消える。
その瞬間、高剛性宇宙線の幾何学的な影と、ガンマ線掩蔽の輪郭が一致した。
OBJECT POSITION:CONFIRMED
TARGET COUNT:1
「出発点を指さない矢」の真相
十四本の矢印は、十四個の発生源を示していたのではありません。
一つの遮蔽物が作った宇宙線の欠落が、粒子の剛性と磁場によって別々の方向へ移動していました。
- 荷電宇宙線:磁場で曲がった影
- ガンマ線:物体に遮られた直線的な光
- ニュートリノ:物体をほぼ通り抜け、背景源を指し続ける
三種類を組み合わせることで、
粒子を生んだ遠方天体
粒子を遮ったトロヤ群の物体
途中で粒子を曲げた磁場
を分けられます。
宇宙線の到来方向は無意味ではありません。
高いエネルギーほど、一般に磁場による偏向が小さくなります。
多数の粒子の異方性や、周辺天体との統計的な相関から発生源候補を絞れます。
しかし一本の荷電粒子を逆向きに直線で延ばし、そこを発生源と決めることはできません。
矢印は出発点を指さない。
だが、曲がり方は通過した磁場を記録している。
MEMORY 12
十四剛性群の影、ガンマ線掩蔽、ニュートリノ方向、十四環の磁場を別々に保存する。
シェル・ゼロの内部に、第十二記憶が開く。
MEMORY 12
私は、矢の到着方向を逆に延ばし、そこを射手と呼んだ。
私は、曲がりの大きい矢を誤差として捨てた。
私は、粒子を生んだ天体と、粒子を遮った物体を同じ場所に置いた。
矢印は出発点を指していなかった。だが、曲がり方は通過した場を記録していた。
第十二の記憶を失ったのは、到着方向だけを保存し、曲がった道を捨てたからだ。
記憶末尾には、約三百五十五年前の第二破砕が残っている。
投下物はシェル・ゼロの内部にあったのではない。
殻の外側に固定されていた。
シェル・ゼロは、投下物を運ぶ船体ではなく、
磁気・宇宙線遮蔽用の外部シールド
だった。
第二破砕時。
シールドと投下物を結ぶ支持部が切断。
投下物はノクス方向へ落ちた。
シェル・ゼロはトロヤ群へ流れた。
殻の内部は、ほとんど空洞。
CLOCK 0本体は見つからない。
しかしニュートリノ検出器が、背景天体とは異なる信号を拾う。
シェル・ゼロの中心方向。
物質を通り抜け、十四秒ごとに届く低強度パルス。
MEMORY 13 REQUEST
RECIPIENT:CLOCK 13
MICA-13の端末だけが応答した。
SOURCE:INSIDE THE SHELL
GAMMA/RADIO/CHARGED PARTICLES:NONE
NEUTRINO CHANNEL:ACTIVE
空洞の殻の中から、ニュートリノだけが届いている。
CASE 025で分かった科学
宇宙線の多くは荷電粒子
主に陽子と原子核で、電子も含まれます。[参考1]
電荷を持つため、磁場によって進路が曲がります。
発生源はエネルギーによって異なる可能性がある
太陽由来粒子、銀河宇宙線、超高エネルギー宇宙線では、加速源・伝搬環境が異なります。太陽風が作るヘリオスフィアも、太陽系へ入る宇宙線の伝わり方に影響します。[参考10]
超新星残骸は一部の銀河宇宙線の加速源として観測的証拠がありますが、宇宙線起源の全体像は未解決です。陽子が周囲の物質と衝突して生じる特徴的なガンマ線が、その検証に使われます。[参考2][参考3][参考4]
剛性
運動量を電荷で割った量。
高剛性の荷電粒子は、同じ磁場で曲がりにくくなります。
異なる電荷の原子核を、エネルギーだけで比較すると偏向を誤ります。
宇宙線シャドウ
月や太陽などが宇宙線を遮ると、到来方向分布に欠落が現れます。
影の位置・形は検出器の方向精度や、途中の磁場を調べる手がかりになります。IceCubeによる太陽の影の観測では、その時間変化と太陽磁場の関係が調べられています。[参考7]
空気シャワー
高エネルギー宇宙線が大気原子核へ衝突すると、多数の二次粒子のカスケードが生じます。
地上観測所は二次粒子、蛍光、電波、チェレンコフ光などから一次宇宙線を再構成します。Pierre Auger Observatoryでは、広い地表検出器群と大気蛍光望遠鏡を組み合わせて超高エネルギー宇宙線を観測しています。[参考5][参考6]
ガンマ線
電荷を持たない光なので、磁場で曲がりません。
宇宙線が物質・光と相互作用した場所を調べる重要な手がかりです。
ただし途中で吸収される場合があります。
ニュートリノ
電荷を持たず、物質と弱くしか反応しません。
磁場で曲がらず、発生源方向を保ちやすいため、高エネルギー宇宙線源を探すマルチメッセンジャー観測に使われます。[参考8][参考9]
到来方向と発生源方向
荷電宇宙線では一致しない場合があります。
高エネルギーほど偏向は小さくなる傾向がありますが、電荷、磁場強度、経路長、乱流で変わります。
十四の宇宙線影が確定したこと
区分表示:ナイトジャー号、木星トロヤ群L5外縁のシェル・ゼロ、十四本の超伝導環、トロヤ公証局のBACKTRACE NORMALIZATION、MEMORY 12はSTAR WARRANTの物語です。宇宙線の多くが荷電粒子で磁場に偏向されること、剛性が高い粒子ほど一般に曲がりにくいこと、月や太陽の宇宙線シャドウが観測されていること、ガンマ線とニュートリノが磁場で曲げられず方向情報を保ちやすいことは現実の観測であり、作中の遮蔽殻と公証手続きとは区分します。末尾のHYPOTHESIS欄では、作中の未回収事件ではなく、宇宙線の起源と伝播に残る科学上の問いだけを扱います。
REAL SCIENCE 現実の科学
- 宇宙線の多くは陽子・原子核・電子などの荷電粒子
- 荷電粒子は磁場で偏向される
- 銀河・太陽圏・地球磁場が到来方向に影響する
- 剛性が高い粒子ほど一般に曲がりにくい
- 超新星残骸が高エネルギー陽子を加速する観測例がある
- 超高エネルギー宇宙線の起源には未解決問題がある
- 宇宙線は大気中で空気シャワーを作る
- 月・太陽の宇宙線シャドウが観測されている
- ガンマ線・ニュートリノは磁場で曲げられない
- ニュートリノは物質と弱く相互作用し、方向情報を保ちやすい
- マルチメッセンジャー観測は宇宙線源候補の特定に使われる
STORY 作中だけの設定
- シェル・ゼロ
- 全長18.4kmの磁気遮蔽殻
- 十四本の超伝導環
- トロヤ公証局BACKTRACE NORMALIZATION
- 十四剛性群の宇宙線影
- 七十四秒のガンマ線掩蔽
- 十四環の磁場に捕捉された荷電ダスト
- MEMORY 12
- 殻内部からの十四秒ニュートリノパルス
- MEMORY 13 REQUEST
この事件で確定した作中の事実
- 十四の影は一つの遮蔽物が作った
- 影の位置差は粒子剛性と局所磁場による
- 真の物体位置はガンマ線掩蔽で確定
- ニュートリノは背景発生源を指し続けた
- 大型遮蔽物はシェル・ゼロ
- 約355年前まで投下物と接続
- シェル・ゼロは運搬本体ではなく外部遮蔽
- 十四環の急反転を阻止
- MEMORY 12回収
- ヴェスパー姿勢制御コイルは焼損
- CLOCK 0本体は未発見
- 殻中心からCLOCK 13宛てニュートリノ信号
- 地球外生命は未確認
作中でなお未解決の問い
- シェル・ゼロを作った主体
- CLOCK 0とシェル・ゼロの接続関係
- 第二破砕の原因
- 投下物をノクスへ向けた主体
- MEMORY 13の内容
- ニュートリノ信号の実際の発信装置
- 空洞のどこに発信源があるか
- 背景ニュートリノ源と内部信号の関係
HYPOTHESIS 宇宙線の起源に残る科学的な未確定事項
- 最高エネルギー宇宙線を主に加速する天体は何か
- 陽子と重い原子核の割合が、エネルギーと到来方向ごとにどう変わるか
- 銀河磁場・銀河間磁場・太陽圏磁場による偏向を、どの精度まで逆算できるか
- 超新星残骸、活動銀河核、星形成銀河などが、各エネルギー帯へどれだけ寄与するか
- ガンマ線・ニュートリノ・重力波との同時観測で、発生源をどこまで特定できるか
- 宇宙線シャドウのずれから、途中の磁場と検出器の方向精度をどこまで分離できるか
よくある疑問
宇宙線は光ではない?
多くは光ではなく、高エネルギーの陽子・原子核・電子です。
ガンマ線は高エネルギーの光ですが、通常は宇宙線と区別して扱われます。
宇宙線はどこから来る?
太陽、超新星残骸、銀河内外の高エネルギー天体など、エネルギー帯によって複数の起源が考えられます。
すべての起源が確定したわけではありません。
到来方向を逆にたどれないの?
荷電粒子は磁場で曲げられるため、単純な直線では戻れません。
高剛性粒子ほど偏向が小さく、統計的な到来方向分布は発生源研究へ利用できます。
宇宙線は地上まで届く?
一次宇宙線の多くは大気と衝突します。
その結果生まれたミューオンなどの二次粒子が地上まで届きます。
ガンマ線なら発生源を指す?
磁場では曲がりませんが、途中で吸収・散乱される場合があります。
またガンマ線が電子由来か陽子・原子核由来かを区別する必要があります。
ニュートリノは何でも通り抜ける?
非常に反応しにくいですが、相互作用確率はゼロではありません。
巨大な検出器で、まれな相互作用を観測します。
宇宙線の影で見えない天体を探せる?
原理的には、物体が宇宙線を遮れば欠落を作れます。
ただし磁場があると影がずれたりぼやけたりするため、エネルギー・電荷・他の観測を合わせる必要があります。
次の賞金事件
シェル・ゼロの内部は空洞だった。
可視光。
電波。
荷電粒子。
ガンマ線。
どの検出器にも、発信機は見つからない。
それでもニュートリノだけが、十四秒ごとに殻の中心から届いている。
ニュートリノは物質を通り抜けやすい。
だから、殻の向こう側の背景信号かもしれない。
だがパルスは、シェル・ゼロの回転に合わせて方向を変える。
発信源は殻と一緒に動いている。
そして宛先は、ただ一つ。
RECIPIENT:CLOCK 13
CASE 026
ニュートリノはなぜ物質をすり抜ける?
「殻を通り抜けた救難信号」
SEASON 2 MEMORY
この捜査で確定したこと
- 十四影は一つのシェル・ゼロが作った
- シェル・ゼロは全長約18.4km
- 十四超伝導環による磁気影
- 真位置はガンマ線掩蔽で確定
読了記録は、この端末のブラウザーにだけ保存されます。
参考資料
- NASA Imagine the Universe「Cosmic Rays - Introduction」
- NASA Scientific Visualization Studio「Fermi Proves Supernova Remnants Produce Cosmic Rays」
- NASA「NASA's Fermi Confirms Star Wreck as Source of Extreme Cosmic Particles」
- NASA Scientific Visualization Studio「How Cosmic-ray Protons Make Gamma Rays」
- Pierre Auger Observatory「Cosmic Rays」
- Pierre Auger Observatory「A Detector Thirty Times the Size of Paris」
- IceCube Neutrino Observatory「Sun's shadow on IceCube shines light on solar magnetic field」
- IceCube Neutrino Observatory「IceCube neutrinos point to long-sought cosmic ray accelerator」
- IceCube Neutrino Observatory「IceCube and Neutrinos」
- NASA Science「Heliosphere」