科学証拠ファイル SW-EV-05 / 担当: ミラ・ヴォス
固有時とは? 相対性理論の「時間」の考え方
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先に結論
固有時とは、その時計が自分自身の経路に沿って刻んだ時間です。基準時計と比べて相対速度が大きい時計では速度による効果が、より強い重力の中の時計では重力による効果が現れます。GPS衛星では両方が逆向きに働き、差し引きで地上の時計より1日約38マイクロ秒速く進むため、相対論補正が設計に組み込まれています。[参考2][参考3]
ミラ・ヴォス 天体物理担当 時計が狂っている、とはまだ言わない。その時計がどんな速さで動き、どれだけ深い重力の底を通ってきたか。経路を確認してから判定する。
「全員に共通の時間」は、どこにも流れていない
日常の感覚では、時間は宇宙のすみずみまで同じ速さで流れているように思えます。相対性理論は、この前提を否定しました。時間の進み方は、どこで、どう動きながら測るかによって変わる量です。
だから時計をめぐる捜査では、二つの時間を区別します。
固有時 — その時計自身が経験した時間
固有時は、時計や人が自分の道筋に沿って実際に刻んできた時間です。腕時計の針も、心臓の鼓動も、髪が伸びる速さも、すべて自分の固有時で進みます。だから本人にとって、自分の時間の流れが変に感じられることはありません。
座標時 — 帳簿を合わせるための共通の時刻表
一方で、離れた場所の出来事を並べて記録するには、共通のものさしが要ります。基準を決めて全体に割り振った時刻が座標時です。座標時は便利な帳簿ですが、誰かが実際に経験した時間そのものではありません。「時計が持ち歩いた行程表」が固有時、「決めた基準で出来事を並べる中央帳簿」が座標時、と考えると区別できます。ただし座標時も宇宙に一冊だけある絶対の帳簿ではなく、選んだ座標系と基準に依存します。[参考3]
時間の遅れには二つの系統がある
「時間の遅れ」と呼ばれる現象には、原因の違う二つの系統があります。
| 系統 | 原因 | 何が起こるか |
|---|---|---|
| 速度による遅れ(特殊相対性理論) | 相手から見て速く動いている | 動いている時計の固有時がゆっくり進む |
| 重力による遅れ(一般相対性理論) | 強い重力の中にいる | 重力の底にある時計の固有時がゆっくり進む |
二つは別の現象ですが、現実の時計には同時に働きます。しかも、宇宙船のような極端な環境だけの話ではありません。
REAL SCIENCE 現実の科学
- 2010年、NIST(アメリカ国立標準技術研究所)は2台の高精度原子時計を比べ、高さ33cmの差だけで時間の進み方が変わることを実測しました。
- 同じ実験系では、時速30km程度の動きによる遅れも検出されています。
- 効果はごく小さく、33cmの高低差が積み上げる差は79年でおよそ90ナノ秒です。
階段の上と下でも、時間の進み方はすでに違います。小さすぎて体感できないだけです。NISTは高さ33cmの差と時速約30kmの運動による差を、原子時計で実測しました。[参考1]
GPSは毎日、相対性理論を補正している
二系統の遅れがそろって現れる身近な実例が、GPS衛星です。
- 衛星は地上に対して高速で動くため、速度の効果は1日あたり約7マイクロ秒の遅れ
- 衛星は地上より重力の弱い高度を飛ぶため、重力の効果は1日あたり約45マイクロ秒の進み
- 差し引きでは、衛星の時計が地上より1日あたり約38マイクロ秒だけ速く進む
この内訳と差し引きはNISTの公式解説で確認できます。[参考2] わずかな差に見えますが、GPSは電波の到達時間から位置を割り出すため、時計差を放置できません。実際のGPSは相対論効果を設計に織り込んでいます。私たちは毎日、その補正の上で地図アプリを使っています。
13個の時計は、なぜ全部「正しかった」のか
作中の2319年でも、この区別は捜査の道具です。太陽系の時刻の帳簿は、作中施設であるメリディアン — 太陽系の時刻を管理する中央時刻庫が握っています。そして宇宙に行くと時間が遅れるのはなぜ? CASE 005「二人の容疑者、ひとつの誕生日」では、密室に残された13個の航行時計が、すべて違う時刻を示していました。故障ではありません。13個は別々の船に載って別々の経路を飛び、それぞれ違う固有時を経験していただけでした。
もう一つ、離れた場所の時計を読むときは、信号が届くまでの時間も混ざります。この遅れは時間の遅れとは別物で、光行時間とは? 宇宙の通信が遅れる理由に整理しています。
STORY 作中だけの設定
メリディアン、ノアとルカ、13個の航行時計はSTAR WARRANTの物語です。NISTの原子時計実験とGPSの相対論補正は現実の測定・運用であり、作中の時計記録とは分けて読みます。
EVIDENCE IN ACTION
この証拠が事件を動かした瞬間
CASE 005の捜査記録を読む「時刻じゃなく、光を使う」
「誰かが書き換えた過去じゃない。全員が今、観測できるものを使う」
このファイルが答えない質問
宇宙に行くと、なぜ時間が遅れるのか。高速で旅をした弟は、なぜ兄より若くなるのか。いわゆる双子のパラドックスを含むこの疑問に、このファイルは直接答えません。同じ誕生日の二人の年齢が食い違う殺人事件として、CASE 005「二人の容疑者、ひとつの誕生日」が所有する謎だからです。
時計ごとに違う時間をめぐる、よくある疑問
固有時は、宇宙船に乗る人だけの話ですか?
いいえ。地上で暮らす私たちにも常に働いています。NISTの実験では、33cmの高低差や時速30km程度の動きでも、進み方の差が実測されました。差が小さすぎて日常では気づかない、というだけです。
「時間の遅れ」と「通信の遅れ」は同じものですか?
別物です。時間の遅れは、時計そのものの進み方が変わる現象です。通信の遅れは、光や電波が距離を渡るのに時間がかかる現象で、光行時間と呼ばれます。遠くの時計を比べる捜査では、この二つを分けてから推理を始めます。
GPSの補正をやめたら、どうなりますか?
衛星と地上の時計のずれが積み上がり、電波の到達時刻から距離を求める測位が急速に不正確になります。実際のGPSは速度と重力の効果を補正する前提で設計されています。
最後は三つの欄を分ける
時計を比べるときは、誰の時計か、どの速度・重力の経路を通ったか、信号が届くまで何秒かかったかを別々の欄へ置きます。この三つを分ければ、「時計の差」と「通信の遅れ」を同じ原因にしてしまう誤りを止められます。
捜査を続けるための資料
このファイルのテーマを、現実の資料でさらに追いたい人向けの一冊です。ほかのテーマの本と観測装備は 捜査資料庫にまとめています。