星系記録 / 実在天体
月 — 足跡が長く残る灰色の法廷
月は地球から平均約38万4,400km離れた唯一の衛星で、大気はほぼ真空、表面重力は地球の約6分の1です。風雨がなく痕跡は残りやすい一方、裏側では月本体が地球への見通し線を遮ります。この環境がCASE 001・003・010の音、足跡、通信経路の事件条件になりました。
空気を通る音が届かず、痕跡がゆっくり変わる衛星
月は、地球から平均約38万4,400km離れた唯一の衛星です。直径は約3,475kmで、地球の約4分の1。表面重力は地球の約6分の1しかありません。大気はごく薄い外気圏があるだけで、実質的には真空です。NASAはこの大気を、太陽の放射や隕石の衝突から表面を守る力を持たないものと説明しています。
真空に近い環境は、二つの結果を生みます。まず、振動を運ぶ空気がないため、空気中の音は月面を渡りません。次に、風や雨による侵食がないため、地形や足跡は地球よりはるかに長く残ります。
ただし、月面の変化が止まるわけではありません。微小天体を含む衝突は表層を混ぜ、太陽風は表面の物質に作用します。着陸船の噴射や探査活動も局所的な痕跡を変えます。「風雨で消えにくい」と「永久に同じ」は分けてください。
温度差も極端です。太陽の当たる昼は約127℃まで上がり、夜は約-173℃まで下がります。熱をため込む大気の毛布がないためです。表面を覆う細かく砕けた砂の性質と危険性は、月の砂の正体を追う証拠ファイル「レゴリスとは」にまとめてあります。
天城レイ ナイトジャー号 船長 静かな現場ほど、証拠はゆっくり変わる。月はそういう法廷だ。
「消えない月」と「見通せない月」が成立させた三つの事件
音がなく、痕跡が残る。この二つの性質が、それぞれ別の事件を成立させました。
一つ目は、月の軌道を漂う廃船から三年前の救難信号が再び届いた事件です。真空の宙域で、なぜベルの音が「鳴った」のか。捜査の記録は宇宙では音が聞こえないのに救難信号はどう届いたのかを追ったCASE 001「真空で鳴るベル」で読めます。
二つ目は、月面基地で整備士が消えた事件です。現場に残っていた手がかりは、基地に向かって歩いた足跡だけでした。捜査は月面の足跡はなぜ消えにくいのかを追ったCASE 003「歩いていない失踪者」で進みます。足跡が何年残るのかという疑問も、この事件簿が答えます。
三つ目は、地球から直接見通せない月の裏側です。廃止済みの中継局から「中継回数0」で届いた声の物理経路を、CASE 010「沈黙しない中継局」で逆向きにたどります。
作中の月に置かれた施設
STORY 作中だけの設定
- 月面基地 TYCHO-4 — CASE 003 の現場になった月面基地。整備士の失踪事件が起きた。
- 地下アーカイブ・ゼロ — TYCHO-4 の地下にある記録庫。アナログ記録が事件の鍵になった。
- 通信整備船《エコー7》 — 月の高軌道を漂っていた廃船。CASE 001 で三年前の信号を再送した。
- 月裏面第0中継局K-0 — CASE 010の現場。地下光幹線と十三の校正室を持つ作中施設。
これらは西暦2319年を舞台にした作中の設定です。現実の月に、人が常駐する基地はまだありません。
月の地形を今夜確かめる
月は肉眼でいちばん観察しやすい天体で、暗く見える「海」の模様は街なかからでも分かります。双眼鏡なら、欠け際(明暗の境界)に並ぶクレーターの影も観察対象です。影が長く伸びて地形の凹凸を捉えやすいのは、満月より半月前後です。