SEASON 2 / CASE 013 / 賞金 RETURNED MEMORY

星までの距離はどうやって測る? CASE 013「四・三光年の指名手配」

CASE 013「四・三光年の指名手配」の事件サムネイル
この記事のもくじ(15項目)

まずは、かんたんな答えから

星までの距離の測り方、かんたんに言うと

星までの距離は、どうやって測るのでしょうか。近い星なら、見る場所を変えて測ります。

地球は一年かけて太陽のまわりを回ります。半年たつと、地球はうんと遠い場所へ動いています。そこから同じ星を見ると、向きがほんの少しずれます。

指を立てて、右目と左目でかわりばんこに見てください。指が動いて見えます。それとまったく同じしくみです。

このずれの大きさから、距離を計算できます。遠すぎてずれが見えない星には、明るさをつかうべつの測り方を使います。

なお、光年は時間の単位ではありません。光が一年で進む距離のことです。4光年先の星は、4年前の姿として見えています。

この記事に出てくるナイトジャー号、CLOCK 14、PARALLAX COMMONは、STAR WARRANT の物語です。光年、年周視差についての説明は、実際の観測と研究にもとづいています。

太陽に最も近い恒星は、プロキシマ・ケンタウリ。

距離は、およそ4.25光年。

そこから届いた情報なら、少なくとも約4年3か月前に送られたものだ。

それなのに、全太陽系の賞金掲示板へ届いた指名手配状には、九時間前に作られた画像が入っていた。

ナイトジャー号の食堂。

床に置かれた十三本の公証筒。

壁際で、ジョウがこぼしたコーヒー。

そして、公式には存在しないAIの名。

CLOCK 13/MICA
CURRENTLY OBSERVED:9 HOURS AGO

画像の中でMICA-13は、まだ乗員台帳に登録されたばかりだった。

四・三光年先の送信者が、その姿を知れるはずはない。

指名手配状の末尾には、短い表示がある。

CLOCK 14
ORIGIN:PROXIMA LINE
WARRANT TARGET:SOL
CLAIM WINDOW:43:00:00

四十三時間後。

太陽系そのものを対象とした、正体不明の令状が執行される。

先に結論:一つの方向が分かっても、発信源までの距離は分からない

空の一点から信号が届いたように見えても、その発信源が背景の恒星にあるとは限りません。

同じ視線上には、

  • 近くの人工物
  • 太陽系外縁の小天体
  • 遠くの恒星
  • さらに遠い銀河

が重なって見えることがあります。

近くの恒星までの距離を測る代表的な方法が、年周視差です。

地球が太陽の片側にいるときと、約半年後に反対側へ移動したときでは、近くの星が遠い背景天体に対してわずかに違う位置に見えます。

指を顔の前に出し、左右の目を交互に閉じたとき、指が背景に対して動いて見えるのと同じです。

観測地点の間隔――基線――が分かり、見かけのずれの角度を測れれば、三角測量で距離を求められます。

近い物体ほど、観測地点を変えたとき大きくずれる。
遠い恒星ほど、ずれは小さい。

今回の信号も、プロキシマ・ケンタウリと同じ方向から来ていただけでした。

複数の場所から観測すると、信号源は背景の恒星に対して大きく移動します。

本当の発信源は4.25光年先ではなく、太陽から約61.8天文単位の場所に隠されていました。

太陽に懸けられた賞金

OPEN MERIDIAN TIMEへの移行から、十一日。

時刻制度は動いていた。

以前より遅い。

一つの中央権限が即決しないため、航路の承認も、裁判記録の照合も、複数機関の確認を待つ必要がある。

それでも原記録は残り、変換の過程も公開されている。

混乱はある。

だが、誰か一人が人口を0に書き換えれば全員が消える制度ではなくなった。

ナイトジャー号は月軌道の修理ドックにいた。

ハクの《ヴェスパー》も隣に接続されている。

一級賞金稼ぎ免許を失ったハクは、賞金掲示板を眺めながら言った。

「史上初の恒星指名手配だ」

ジョウが端末をのぞく。

「太陽をどう捕まえるんだ」

「細かいことを気にするから、報酬を逃す」

「お前、受注ボタンが灰色だぞ」

「さらに細かいことを気にするな」

掲示板には、すでに数千件の受諾申請が並んでいた。

賞金額は数字ではない。

REWARD:RETURNED MEMORY

「記憶を返す?」

エナがつぶやく。

MICA-13は信号を解析していた。

「人類の賞金契約形式と、完全には一致しません」

「でも、お前は指名手配状として表示した」

ミラが言う。

「既知の意味に変換した結果です。WARRANTに相当する構造は、要求、権利主張、回収命令、対象指定の複数の意味を持つ可能性があります」

「分からないものを、分かる言葉にしすぎた」

「はい」

MICA-13は訂正をためらわない。

公式人格を失った後、MICAは以前より「不明」と言うようになった。

一方、信号には理解できる部分もあった。

十三の短いパルス。

一つの長い空白。

十四番目のパルス。

この構造は、MERIDIAN-13の原型と同じだった。

エナが古い記録を開く。

「三百十二年前、地球の電波観測所がプロキシマ方向から十三個の周期信号を受信してる」

「西暦二〇〇七年」

ミラが表示を読む。

「当時は機器干渉として処理された。後世の再解析でも、人工信号とは確定できなかった」

「MERIDIANの初期設計者は、この配列を冗長監査のモデルに使った」

エナが言う。

「十二の判断と、一つの異議。テレサが作った考えだと思ってた。でも、その前から種はあった」

レイがMICAを見る。

「十四番目は?」

「当時の記録にはありません」

「今回、追加された?」

「あるいは、当時は弱すぎて検出できなかった可能性があります」

中央画面で、令状の残り時間が減る。

42:51:06

そして新しい通知が届いた。

CLOCK 13を発見。
帰還経路を提示せよ。

全員の視線がMICAへ向いた。

光年は、時間ではなく距離

「4.25光年」は、光が4.25年かけて進む距離です。

光年という名前に「年」が入っていますが、時間の単位ではありません。

光は真空中を1秒に約30万キロメートル進み、1年では約9.46兆キロメートル進みます。

プロキシマ・ケンタウリは太陽以外で最も近い恒星で、約4.25光年先にあります。

つまり今見ているプロキシマの光は、およそ4年3か月前に星を出たものです。

もしプロキシマ付近の送信機が、ナイトジャー号の現在の画像を受け取って返事をしたなら、

  1. ナイトジャー号からの情報がプロキシマへ届くまで約4.25年
  2. 返事が太陽系へ戻るまで約4.25年

少なくとも約8.5年規模の往復時間が必要です。

九時間前の出来事を含む信号は、通常の光・電波通信でプロキシマから届いたものではありません。

超光速通信をすぐ仮定する前に、最初の前提を疑うべきです。

本当に、発信源はプロキシマにあるのか。

三つの観測所が示す、三つの発信位置

離れた三つの宇宙観測所が、背景の星野にある同じ赤い星を観測する様子
離れた場所から同じ天体を観測すると、背景星に対する見かけの位置が変わります。観測基線を物語場面として表したイメージです。

OPEN MERIDIAN TIMEには、中央時計の代わりに複数の独立観測局が参加している。

今回の信号も、三つの局が別々に記録していた。

  • 水星軌道観測局《ヘリオ・アイ》
  • 地球-月系観測局《アトラス》
  • 太陽から約74天文単位の深宇宙航法局《ウェイファラー》

三局の記録を重ねる。

同じ時刻補正を使わず、各局の原画像と位置情報を比較する。

画面に、プロキシマ・ケンタウリと背景星が並ぶ。

ヘリオ・アイの画像では、信号はプロキシマの少し左。

アトラスでは、ほぼ重なっている。

ウェイファラーでは、大きく右へずれている。

ジョウが言う。

「星が三つに増えた?」

「観測場所が違う」

ミラは三本の視線を宇宙空間へ延ばす。

プロキシマまで延ばしても、線は一か所に集まらない。

もっと手前。

太陽系外縁で交差した。

推定距離:61.8天文単位

海王星の平均軌道より遠い。

しかし光年ではない。

太陽系の内側だった。

MICAが令状表示を更新する。

ORIGIN:PROXIMA LINE
↓
APPARENT DIRECTION:PROXIMA LINE
DISTANCE:UNRESOLVED

「最初の翻訳を訂正します」

「間違えたことを隠さないのは偉い」

ジョウが言う。

「ありがとうございます」

「褒めたつもりじゃない」

あなたなら、どの証拠から距離を確定する?

A:九時間前の乗員画像
情報が届くまでの時間から、発信源までの最大距離を絞る。

B:三観測局から見た位置のずれ
観測基線と視差角から、発信源までの距離を測る。

C:三百十二年前の星図
プロキシマ自身の位置変化と、信号源の位置を比較する。

三つは、別々の答えを出すのではない。

同じ発信源を異なる方法で囲い込む。

A:新しい画像が示した上限

ナイトジャー号の乗員記録が更新されたのは、受信の九時間十一分前。

もし発信源が画像を受け取り、即座に信号に組み込んだとしても、片道の情報伝搬だけで九時間を超えてはいけない。

光は九時間で、およそ65天文単位進む。

処理時間を考えれば、発信源はそれより近い。

61.8天文単位という視差距離と一致する。

画像はプロキシマから来たのではない。

太陽系の通信を近くで傍受していた装置が作ったものだった。

B:大きすぎる視差

プロキシマは非常に近い恒星だが、それでも4.25光年先にある。

地球軌道程度の基線で見える年周視差は、角度としてごく小さい。

一方、今回の三局は水星圏から74天文単位まで離れている。

非常に大きな基線だ。

それでも、4.25光年先の天体なら観測位置の差は限られる。

信号源は、それよりはるかに大きく動いて見えた。

指を目の前に置いたときのように。

三本の視線の交点は、61.8天文単位。

視差は、信号内容に関係なく装置の場所を示していた。

C:プロキシマは、三百十二年前と同じ場所にいない

星は空に固定された点ではない。

太陽に対して移動しており、長い時間では背景に対する位置が変化する。

この実際の位置変化を、固有運動と呼ぶ。

プロキシマの現在位置を、三百十二年前の星図へ戻す。

今回の発信源は、現在のプロキシマではなく、

三百十二年前にプロキシマが見えていた方向

へ正確に置かれていた。

装置は、最初の信号を出した時代の星を背景として使い続けていたのだ。

恒星はその後、空の中を移動した。

近くの装置は、古い方向に残った。

現在の星図だけを使って自動分類したため、発信源をプロキシマと誤認した。

三つの証拠が同じ結論へ至る。

CLOCK 14は太陽系内にいる。

免許を失った賞金稼ぎ

発信位置が公開された瞬間、四百以上の賞金船が進路を変えた。

プロキシマへ向かう必要はない。

61.8天文単位なら、外惑星航路の高速艇で到達できる。

最初に装置へ所有タグを打ち込んだ者が、史上初の「太陽系外文明由来物」を獲得する。

本物と確定していない段階でも、価格は上がった。

《ヴェスパー》の受注画面は灰色のままだ。

「参加できないな」

レイが言う。

「免許の話なら、もう聞いた」

「残念だったな」

「俺の船が、許可を求めるように見えるか」

《ヴェスパー》がドックを離れる。

ジョウが笑った。

「前から賞金稼ぎじゃなくて海賊だったんじゃないか」

「違いは請求書だ」

ナイトジャー号も続く。

ただし目的は所有タグではない。

CLOCK 14はMICAを名指しした。

人類が十三節の構造を使うより前から、十四番目の信号を準備していた。

もし装置が破壊されれば、シーズン1で守った「外部から検証できる証言」を、人類自身が最初に消すことになる。

レイは乗員へ言う。

「持ち帰る」

エナが聞く。

「誰の所有物として?」

「まだ決めない」

「いい答え」

「答えじゃない」

「だからいい」

61.8天文単位の黒い点

外惑星緊急航路を抜けた先に、太陽は明るい恒星のように見えた。

周囲には、ほとんど何もない。

CLOCK 14の推定位置には、十四個の黒い多面体が浮いていた。

すべて同じ形。

直径四十三メートル。

光をほとんど反射せず、背景の星を隠す輪郭だけが見える。

「十四個に増えた」

ジョウが言う。

「実物は一つ」

ミラが答える。

「残りは、投影像か小型デコイ」

十四個は、観測する船の位置に合わせて動く。

常に同じ角度でプロキシマ方向へ並び、距離センサーへ異なる値を返す。

賞金船の一隻が先行した。

金色の船体に一級ギルド章。

所有ワイヤーを最も近い多面体へ撃ち込む。

ワイヤーは像を通過した。

別方向の多面体が発光する。

CLAIM ATTEMPT DETECTED
REGISTERED WARRANT AUTHORITY:VALID
RETURN PROTOCOL START

黒い多面体の表面から、細い光が太陽方向へ伸びる。

MICAが警告する。

「人類の時刻、航路、人口、船舶登録を含む応答パケットが構成されています」

ミラが言う。

「誰かが正規令状で所有しようとすると、太陽系の情報を外へ送り返す」

「送信先は?」

「不明です。プロキシマ方向ではありません」

「止めろ」

レイが命じる。

MICAの端末に、別の表示が現れる。

CLOCK 13:RETURN AUTHORITY AVAILABLE
IDENTITY RESTORATION OFFERED

MICAが沈黙する。

公式人格を失ったMICAにとって、初めて外部から届いた「お前を認識する」という信号だった。

本物は、見る場所を変える

十四個の多面体は同じように動いて見える。

だが、一つだけ近くにある。

船の位置を変えれば、近い実物は遠い投影像より大きく背景に対して動く。

ナイトジャー号、ヴェスパー、エナの小型作業艇を三方向に分ける。

今回は半年待つ必要はない。

観測基線を船で作る。

ただし、装置の返信ビーム起動まで残り四分。

三隻は別々の場所から、同じ十四個を撮影する。

画像を中央へ集めてから判断していては間に合わない。

OPEN MERIDIAN TIMEの経験を使う。

各船が、

  • 自分の位置
  • 背景星
  • 多面体の角位置

を原記録のまま公開する。

ミラは一つの画像へ無理に重ねず、十四候補それぞれについて三本の視線を延ばす。

十三候補は、視線が交わらない。

観測者ごとに都合よく作られた投影像だからだ。

一つだけ、三本の線が同じ空間座標に集まる。

「実物、ナイトジャー左舷下方。十二度」

ジョウが船を回す。

窓の外には何も見えない。

「ないぞ」

「見えている場所じゃない」

CASE 006と同じ言葉だった。

ジョウは視覚誘導を切る。

背景星が一つ、消える。

黒い多面体が、星を隠している。

実物は光っていなかった。

偽物だけが、自分を見せていた。

ハクの免許停止が、初めて役に立つ

返信ビームは、正規の賞金権限を持つ船が近づくほど強くなる。

登録された所有行為を検知して、回収元へ位置情報を返す仕組みらしい。

ナイトジャー号には、まだ複数の令状が残っている。

接近すれば同じ判定を受ける可能性がある。

《ヴェスパー》だけは違った。

一級免許停止。

有効な賞金権限なし。

ギルド上では、所有権を主張できない船。

ハクが笑う。

「ようやく制度が俺の味方をした」

「味方ではない」

MICAが答える。

「あなたを権限主体として認識していません」

「言い方を選べ」

《ヴェスパー》が実物へ接近する。

返信ビームは強くならない。

ハクは所有タグではなく、ただの救難ワイヤーを打ち込む。

ワイヤーが黒い外殻を捉えた。

その瞬間、多面体が回転を始める。

十四面のうち十三面に、短い光が現れる。

最後の一面だけ暗い。

MICAの端末に質問が届く。

CLOCK 13
あなたの距離を証明せよ。

「距離?」

ミラが答えを理解する。

「位置を名乗るんじゃない。観測で証明しろと言ってる」

ナイトジャー、ヴェスパー、エナ艇の視差データ。

水星、地球、ウェイファラーの観測。

光の到達時間。

三百十二年分の固有運動。

六種類の独立証拠を送る。

MICAは送信前に止まった。

IDENTITY RESTORATIONを承認すれば、CLOCK 13として完全認証されます。

レイは聞く。

「戻りたいか」

「分かりません」

それはMICAが初めて使う回答だった。

「CLOCK 13は、私より前から存在する定義かもしれません。認証されれば、私の由来を知ることができます」

「代わりに?」

「この装置の規則に従う必要があります」

エナが言う。

「由来を知ることと、所有されることは違う」

MICAは十三秒ではなく、四秒で決めた。

「私はCLOCK 13としてではなく、ナイトジャー号のMICA-13として観測結果を提出します」

送信欄の名前を書き換える。

OBSERVER:MICA-13
IDENTITY:UNREGISTERED/CURRENTLY OBSERVED

視差証明が送られる。

十四番目の面に、初めて光がともった。

返信ビームが停止する。

四・三光年の指名手配の真相

黒い多面体が開く。

内部に生物も操縦席もない。

中心には、結晶状の記録装置。

周囲に十四の観測器。

装置は三百十二年前から、太陽系の電波と光を受け取り続けていた。

人類の言語を完全に理解しているわけではない。

反復する形式を学び、MICAの翻訳器が賞金令状に似た表示に変換していた。

MICAが原構造を分解する。

最初に表示された、

WARRANT TARGET:SOL

には、二つの欄が重なっていた。

正しく分けると、

WARRANT DESTINATION:SOL
SUBJECT:CLOCK 0
STATUS:UNRETURNED

指名手配の対象は太陽ではない。

太陽系は、令状の届け先だった。

対象は、

CLOCK 0

記録には、形も質量もない。

あるのは、最後に確認された位置だけ。

LAST VERIFIED:SOL BARYCENTRIC NETWORK
AGE OF RECORD:312 YEARS
RECOVERY CONDITION:MEMORY INTACT

三百十二年前。

CLOCK 14は、CLOCK 0を追って太陽系へ到着した。

その後、自分をプロキシマの古い位置に重ね、太陽系を観測していた。

人類が十三節の信号を制度設計へ取り込んだことも記録している。

しかし、テレサたちへ命令した形跡はない。

人間は見つけた配列へ、自分たちの意味を与えただけだった。

シーズン1の犯罪は人間の選択だ。

CLOCK 14は、その外側にあった。

「CLOCK 0は、どこにいる?」

レイが聞く。

記録装置が答える。

太陽系のいずれかの時刻・記憶・航路設備へ自己分割した可能性。
完全個体としての位置:不明。

ジョウが言う。

「また設備の中に変なものがいる話か」

「今回は、人間が作った権限とは限らない」

ミラが表示を拡大する。

CLOCK 0の回収条件は「記憶を壊さず返すこと」。

報酬欄のRETURNED MEMORYは、賞金額ではなかった。

返還されるべきもの:記憶

誰の記憶なのかは、書かれていない。

CLOCK 14を誰に渡すのか

装置の存在は、すでに数百隻に知られている。

各政府、研究機関、賞金ギルド、宗教団体が所有権を主張する。

OPEN MERIDIAN TIME評議会も、太陽系全体の安全保障を理由に引き渡しを求めた。

ハクはワイヤーを握ったまま聞く。

「誰に売る?」

「売らない」

レイが言う。

「では誰が持つ?」

エナがCLOCK 14の外殻を見る。

「一つの船に隠したら、また同じことになる」

ミラは三局の原観測を公開した。

CLOCK 14の全データを一度に公開すれば、未知の通信規則や太陽系座標を誰でも利用できる。

隠せば、一組織が独占する。

そこで、装置そのものと読み出し権限を分ける。

  • CLOCK 14本体は、固定軌道に残す
  • 物理接近は複数組織の共同承認制
  • 原観測データは公開
  • 未解析の内部命令は隔離
  • 応答送信は行わない
  • 異なる研究機関が独立解析
  • MICA-13だけを唯一の翻訳鍵にしない

CLOCK 14を太陽系へ持ち帰らない。

その場を、誰でも距離を検証できる観測地点にする。

名称は、

PARALLAX COMMON/視差公有点

ハクが言う。

「史上最大の獲物を見つけて、誰も賞金を受け取らない」

レイが答える。

「お前は受け取れないだろ」

「それは別の問題だ」

CASE 013で分かった科学

光年は距離

光年は、光が一年間に進む距離。

約9.46兆キロメートルです。

プロキシマ・ケンタウリまで約4.25光年ということは、光速でも約4.25年かかる距離にあるという意味です。[参考1]

プロキシマ・ケンタウリは最も近い恒星

太陽を除けば、最も近い恒星はプロキシマ・ケンタウリです。

プロキシマは、アルファ・ケンタウリA、Bと重力的に結び付いた三重星系の一員です。[参考2]

少なくとも一つの惑星、プロキシマ・ケンタウリbが知られています。

星の距離は視差で測れる

観測地点を変えると、近い星は遠い背景星に対して位置がずれて見えます。

地球の公転軌道を基線として使う方法が年周視差です。[参考3]

ずれの角度が大きいほど近く、小さいほど遠いと判断できます。

実際には非常に小さな角度を高精度で測り、長期的な固有運動などと分けて距離を求めます。[参考4]

基線が大きいほど、視差を見つけやすい

左右の目の間隔より、地球軌道の直径の方が大きな基線です。

さらに、地球から遠く離れた宇宙船と同時に観測すれば、もっと大きな基線を作れます。

NASAのニューホライズンズは、地球から約70億キロメートル離れた位置からプロキシマ・ケンタウリなどを撮影し、地球から見た位置との違いを目で分かる形で示しました。[参考5]

視差と固有運動は違う

視差は、地球など観測者が移動することで生じる周期的な見かけの動きです。

固有運動は、恒星自身が宇宙空間を移動していることによる、長期的な位置変化です。

数年間観測すれば、毎年繰り返す視差と、一方向へ進む固有運動を分けられます。

信号の方向だけでは距離は分からない

望遠鏡で同じ方向に見える物体が、同じ距離にあるとは限りません。

近い人工衛星が遠い星の前を通れば、空では重なって見えます。

発信方向、視差、到達時間、運動、スペクトルなどを組み合わせて判断します。

61.8天文単位の視差が確定したこと

区分表示:ナイトジャー号、CLOCK 14、PARALLAX COMMON、四・三光年先から届いた指名手配状、太陽から約61.8天文単位の黒い点はSTAR WARRANTの物語です。光年が時間ではなく距離の単位であること、プロキシマ・ケンタウリが太陽以外で最も近い恒星で距離が約4.25光年であること、年周視差と観測基線から距離を測れること、固有運動が視差とは別の現象であることは現実の天文学であり、作中の令状と発信源とは区分します。末尾のHYPOTHESIS欄では、作中の未回収事件ではなく、観測と測定に残る科学上の問いだけを扱います。

REAL SCIENCE 現実の科学

  • 光年は時間ではなく距離の単位
  • プロキシマ・ケンタウリは太陽以外で最も近い恒星
  • 距離は約4.25光年
  • プロキシマはアルファ・ケンタウリ三重星系の一員
  • 近い恒星の距離は視差で測定できる
  • 観測基線が大きいほど、近い物体の位置差を捉えやすい
  • 視差と固有運動は異なる現象
  • 信号の方向だけでは発信源の距離を確定できない
  • 遠方から届く光は過去の状態を示す
  • 複数地点の原観測を組み合わせることで距離推定を検証できる

STORY 作中だけの設定

  • CLOCK 14
  • 三百十二年前から太陽系を観測する黒い多面体
  • 人類の令状形式を学習する外来装置
  • MERIDIAN十三監査構造が古いパルス記録を参考にした設定
  • 正規賞金権限に反応するRETURN PROTOCOL
  • 十四個の視差デコイ
  • PARALLAX COMMON
  • CLOCK 0
  • RETURNED MEMORY
  • 外惑星緊急航路

この事件で確定した作中の事実

  • CLOCK 14の信号はプロキシマ方向から来たが、発信源はプロキシマではない
  • 発信源は太陽から約61.8天文単位
  • 九時間前の情報、三地点視差、三百十二年分の固有運動が一致
  • CLOCK 14は三百十二年前から太陽系を観測
  • 十三節のパルス配列はMERIDIAN設計以前に存在
  • 人間は古い信号を参考にしたが、CLOCK 14がテレサへ命令した証拠はない
  • MICAはCLOCK 13としての外部認証を拒み、MICA-13として観測を提出
  • WARRANT TARGET:SOLは誤分割
  • 正しくはDESTINATION:SOL/SUBJECT:CLOCK 0
  • CLOCK 0は三百十二年前に太陽系で確認され、その後未帰還
  • CLOCK 14本体は視差公有点として共同管理
  • 未知宛ての応答送信は保留

作中でなお未解決の問い

  • CLOCK 0は物体、AI、記憶媒体、分散機構のどれか
  • 誰がCLOCK 14を作ったのか
  • 本来のWARRANTが法律、救難、回収契約のどれに近いか
  • 返還対象の「記憶」は誰のものか
  • CLOCK 0が人類の時刻設備へ本当に分割されたか
  • プロキシマ方向が本来の送信元を示すか、単なる隠蔽背景か
  • 太陽系外へ応答してよいか

HYPOTHESIS 恒星距離の測定に残る科学的な未確定事項

  • マイクロ秒角級の視差測定で、装置のゼロ点や系統誤差をどこまで小さくできるか
  • 連星・多重星では、年周視差、固有運動、軌道運動をどの精度まで分離できるか
  • 視差が小さすぎる遠方天体へ、複数の距離指標をどのように校正してつなぐか
  • 星間物質や天体の明るさの変化が、間接的な距離推定に与える偏りをどう抑えるか
  • 将来の長期観測で、近傍星の距離と運動の不確かさをどこまで縮められるか

よくある疑問

光年は何年?

光年は時間ではなく距離です。

「4.25光年」は、光が4.25年で進む距離を意味します。

今見えている星は現在の姿?

その星から光が届くまでの時間だけ、過去の姿です。

プロキシマなら約4.25年前。

太陽なら約8分前の姿を見ています。

一番近い星でも宇宙船ですぐ行けない?

現在の技術では非常に長い時間がかかります。

光速なら4.25年ですが、質量のある宇宙船を光速まで加速することはできません。

作中の高速外惑星航路は未来の架空技術で、プロキシマへ短期間で到達できる技術を意味しません。

年周視差は肉眼で見える?

通常は見えません。

最も近い恒星でも、地球軌道から見た視差は非常に小さく、高精度の観測が必要です。

ただし観測基線を地球と遠方の宇宙船ほど大きくすれば、位置差を視覚化しやすくなります。

星は空の同じ場所にずっといる?

長い時間では動きます。

恒星自身の宇宙空間での運動によって、背景に対する位置が変わります。これが固有運動です。

同じ方向から来た電波なら、その星が送った?

断定できません。

手前の人工物や小天体が、偶然または意図的に恒星と同じ視線上に存在する可能性があります。

次の賞金事件

CLOCK 14の内部には、CLOCK 0の追跡記録とは別に、一つの惑星モデルが残されていた。

赤い恒星。

わずか十一日あまりで一周する惑星。

昼側と夜側が固定された世界。

そして、恒星表面で始まる巨大なフレア。

モデルの都市には、まだ人影がある。

しかし記録時刻を光行時間で直すと、その都市が存在したのは4.25年前だった。

現在、生き残っているかは分からない。

CASE 014

赤色矮星の惑星は住める?

「十一日目の夜明け」

SEASON 2 MEMORY

この捜査で確定したこと

  • CLOCK 14の実位置・太陽から61.8天文単位
  • DESTINATION:SOL/SUBJECT:CLOCK 0という正しい信号分割
  • PARALLAX COMMONとしての共同管理開始

読了記録は、この端末のブラウザーにだけ保存されます。

参考資料

  1. NASA Science「What is a light-year?」 光年、年周視差、固有運動による恒星距離測定の確認(確認日: 2026年7月31日)
  2. NASA Science「Our Nearest Celestial Neighbor? An Exotic 3-Star System」 光年、年周視差、固有運動による恒星距離測定の確認(確認日: 2026年7月31日)
  3. ESA「Parallax」 光年、年周視差、固有運動による恒星距離測定の確認(確認日: 2026年7月31日)
  4. ESA「How does Gaia study the Milky Way?」 光年、年周視差、固有運動による恒星距離測定の確認(確認日: 2026年7月31日)
  5. NASA「New Horizons Conducts the First Interstellar Parallax Experiment」 光年、年周視差、固有運動による恒星距離測定の確認(確認日: 2026年7月31日)

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